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三九 嘆くエルサレムの娘たち
城門に至る道は、ややけわしかった。城門のアーチをまずくぐり、次いで橋を渡り、最後に再びアーチをくぐらねばならなかった。行列がそこまで来ると、獄吏たちはますますはげしくせきたてた。城門のすぐ前のデコボコしたわだちのついた道に、大きな水たまりがあった。残酷な獄吏たちは主を前に引っぱった。シレネのシモンは、はしのよい道を通ろうとした。それで重い十字架の向きが変わって哀れなイエズスは四度目に倒れた。主はその汚い水たまりにころんだ。シモンは辛うじて十字架を支えた。イエズスはとぎれとぎれであったが高い声で叫ばれた。「ああ、ああ、エルサレムよ。わたしはいかほどおまえを愛したことか。雛を翼の下に集めるめん鶏のように、しかるにおまえはわたしをおまえの門から残酷にもつきとばすのか。」しかしファリサイ人は主の方に向き直って嘲笑った。「治安攪乱者のやつ。まだ物足りないと見えて馬鹿話をやっているぞ。」
かれらは主を打ちつけ、その水たまりから引きずり出した。シレネのシモンはこの乱暴にすっかり憤慨して叫んだ。「もしおまえさんがたが乱暴をやめなければ、たとえおれを殺そうとも、この十字架を投げ出してしまうぞ。」
城門のすぐ前からカルワリオに登る所は狭いでこぼこ道となった。この分かれ道の所に杭が立っていた。それには主および二人の盗賊の死刑判決の板が取り付けてあった。そこに泣き悲しんでいる婦人の一群がいた。それは娘らと子供連れの婦人たちでエルサレムから行列に先立って来ていたのである。その中にはヘブロンやベトレヘムやその付近の村から来ている女たちも見受けられた。かの女らは過越し祭に来ていたが、エルサレムの婦人たちのあとを追ってここまで来たのであった。
ここまで来られると主は失神したようになって身をかがめられた。体はすっかり地面についてしまわなかったが、主のあとにいるシモンは十字架を地面に下ろし、主を支えようとして近寄った。主はシモンに寄りかかられた。これで十字架をになって救い主がお倒れになったのは五回目である。婦人や娘たちはこの恐ろしい光景に悲嘆と同情の大きな叫びをあげた。するとイエズスはその方に向いてこう仰せになった。「エルサレムの娘たちよ。わたしのために泣くな。むしろあなたがた自身と、あなたがたの子供らのために泣くがよい。なんとなれば - うまずめなる者、まだ産まざる胎とまだ飲ませざる乳房とは幸いである - と言われる時が来るであろう。その時、人は山に向かってわれらの上に落ちかかれと言い、丘に向かってわれらをおおえ、と言うであろう。生木さえもかくのごとくなれば、まして枯木はいかほどであろう。」
行列はここで一時とまった。まずならず者たちが拷問道具を持ってカルワリオの山に登った。それにピラトの派遣した百人のローマ兵が続いた。