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四三  十字架につけられたもう



 さて、主の体を獄吏は十字架の上にひきのばした。主はすでに自らその上に身をおいていた。しかしかれらは主をあおむけざまに突き倒し、右の手を右の横木の釘穴の所まで引っぱり、その腕をしっかりと縛った。一人は主の尊き胸の上に膝をつき、その握ろうとする手を開かせて押さえつけた。他の一人は長い、太い、先をやすりで鋭くした釘を手のひらのふくらみに差し込み、金槌をもってあらあらしく打ち込んだ。主の血は獄吏の腕にほとばしった。手の筋は引き裂かれ、三角に切りそがれた釘はせまい釘穴に打ち込まれて行った。このいくつかの大きな金槌は全部鉄でできていて分解できないようになっていた。釘はこれを握ると上下に一インチずつ余るほどの長さであった。それにはクロネンターレル(十八世紀のオーストリアの銀貨)ほどの大きさの丸い頭がついていた。釘は三角に切りそがれていた。その先はやすりがかけてあり、上の方は親指ほどで下の方は小指ほどの太さであった。その釘の先は磔刑の時、十字架のうしろに少しつき出た。

 主の右手に釘を打ち終わると、刑吏は十字架にしっかりと縛られていた主の左手が、もう一つの釘穴に届かないのに気がついた。それはちょうど指先から二インチほど離れた所に穿たれていた。それでまず横木から腕をほどいた。そしてそのほどいた腕に縄を巻きつけ、十字架の幹に足をかけ、手が釘穴に届くまでその腕を引きのばした。それから主の腕や胸に膝をついて、腕を横木にしっかりと結びつけ、二本目の釘を左手に打ち込んだ。両の腕は引きのばされたため、関節からはずれてしまった。その肩は落ちくぼみ、胸は高く盛り上がり、膝はちぢんでしまった。

 聖母は言葉に尽くせぬほどの苦しみをお忍びになり、死人のように青ざめていた。ファリサイ人は聖母の立ちたもうた方に向かって嘲っていた。それでだれかが聖母を少しわきに離れた所にいる他の婦人たちの所にお連れした。

 十字架の根もとから三分の一ほどの高さの所に、つき出た台が長い釘で固定されていた。その上にイエズスの足を釘づけるはずであった。それは主をつり下げるためではなく、立たせるためであった。さもなければ主の両手は引き裂かれてしまい、両足にそれを打ち砕かずに釘を打つことができないからである。この足台には釘穴が穿ってあった。

 救い主の全身は両腕が引っぱられているために高くつり上がり、その膝もつき上がっていた。獄吏たちはこれを見て躍りかかり、膝に縄を巻きつけて引き下ろし十字架に縛りつけたが、釘穴の位置が悪かったために足は足台まで届かなかった。獄吏たちはひどく呪いはじめた。二、三の者は足台をさらに上の方に取りかえることはひどく骨が折れるので、腕の釘穴を他にあけなければならないと言った。しかし他の者は - こいつは自分で体をのばそうともしない。よしおれたちで助けてやろう。 - という恐るべき侮辱の言葉を吐きながら、主の右足に綱を巻きつけ、恐るべき惨忍な力で足台まで引きのばし、それをしっかりとそこへ縛りつけた。かれらは主の手が釘のために裂けないように、すでに腕や胸を縛っておいた。それで肋骨が胸骨から砕け離れてしまうかのようであった。なんと身震いするような苦しみ!同様に左足も右に重ねて縛りつけた。そしてまず頭の平たい細い釘で足に穴をあけ、それから恐ろしいもっと長い釘を、非常に骨折って左足の傷ついた甲につき通し、またその下の右足を打ちぬいて十字架の幹にたたき込んだ。わたしはそばで釘が両足を貫いて行くのを見た。

 足が釘づけにされたので主の全身は恐ろしくひきつられた。それは今までのあらゆる苦しみにも増してはるかに惨酷なものであった。わたしは槌の響きを三十六回ほど数えた。十字架に主が釘づけにされている間、まわりの群衆のここかしこから叫び声が上がった。「大地がこの悪党を呑み込まないように。 - 天から火が降ってこの人たちを焼き尽くしませんように!」これに対して反対側から罵倒や嘲弄が応酬された。

 イエズスは詩編や預言の今や成就された各節を唱えておられた。主は恐るべき苦しみの全道程を通じ、絶えずこういう祈りを唱えておられた。わたしはこれらの各節をすべて聞いた。わたしはいつも詩編を唱えるたびに主の唱えられた所を思い起こす。しかし、今わたしの心はわが天配の殉教に全くおし砕かれてしまっているので、もはやこれをまとめることはできない。この戦慄すべきご苦難の間、わたしは天使が泣きながら主に現れているのを見た。

 釘づけする始めにローマの看視兵の指揮官は、ピラトが書いた捨て札を十字架の上の方に打ちつけさせた。ローマ兵たちが「ユダヤ人の王」という称号に大笑いしたのでファリサイ人は憤慨した。そして二、三のファリサイ人は捨て札を書きかえてもらうために、もう一度町に馬を走らせて総督の所へ行った。

 太陽の位置から言ってイエズスが釘づけにされた時は十二時十五分すぎごろであった。





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