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四五 強盗の磔刑
主が釘づけされる間、強盗はまだ山腹にあおむけにころがされて、見張りが一人ついていた。かれら二人はピラトが演習の時、時々泊まっていたエルサレムとヨッペの中ほどにある城に、金持ちの商人になりすまして現れた。しかしかれらは旅の一ユダヤ婦人とその子供を殺したという疑いがかけられて捕らえられた。かれらは長い間、獄舎につながれていた後、その犯罪が明らかになり判決されたのである。しかしわたしはそれについてこまかいことは忘れてしまった。いわゆる左がわの強盗は年かさの大柄の悪党で、もう一人の方を誘い込み、またその親分でもあった。かれは通常「ゲスマス」と呼ばれる。もう一人の方は「ディスマス」と呼ばれていた。わたしは本当の名前を忘れてしまったので、よいディスマス、悪いゲスマスと呼ぶことにしよう。
かれらは二人ともエジプト国境に巣喰う盗賊団に属していた。聖家族がエジプト避難の際一夜を明かされた木賃宿もかれらのなわばりの中にあった。そしてディスマスは癩病にかかっていた子供であったが、実におん子イエズスのお風呂の水で洗われるや、瞬間になおったのであった。今かれははりつけられるにおよんで、イエズスのおん血による完全な清めに浴そうとしている。ディスマスはすっかりしょげかえっていた。かれはイエズスを覚えてはいなかった。しかし根からの悪党ではなかったので主の忍耐深さに感動していた。かれはそこにあおむけにころがされている間に、ゲスマスと救い主のことをいろいろ語り合った。かれは言った。「あいつらはずいぶんあのガリラヤ人にひどいことをしやがるじゃないか。あの人間が何か新しい律法でどうのこうのと言うのは、きっとおれたちの方よりひどい悪事に違いないぞ。それにしてもあの人間、えらくがまん強いなあ。それにあらゆる人間に対してなんと大した力を持っているじゃあないか。」するとゲスマスは答えた。「一体あの人間がどんな力を持っていると言いやがるって。もしあいつにみなが言っているように力があるなら、おれたちもみな助けられるはずじゃないか。」こうかれらはたがいに話し合っていた。十字架が立てられるや、今度はかれらの番になった。獄吏たちは二人の所にやって来てかれらを引きずり起こし、横木からほどいた。すべては非常に迅速に行われた。それは太陽がすでに曇りはじめ、自然界はみな暴風雨でも迫って来るような気配を示していたからである。
獄吏たちはすでに立てられていた十字架の幹にはしごをかけ、曲がっている横木を上のはしに固定した。次いで二つのはしごが各々の十字架にかけられた。それに刑吏が登って行った。その間に強盗は酢と没薬を混ぜたものを飲まされた。そしてその胴着がぬがされた。さて二人は十字架にはめ込んだ木の釘を登って行かなければならなかった。それと同時に獄吏たちは横木越しに投げ上げられた綱で強盗の腕をつり上げた。次いでその四肢を縄でしっかりと縛りつけた。それから縄穴に棒を差し込んで肉が破れ出るまでキリキリと棒をよじり締め上げた。強盗はぞっとするような怒鳴り声を上げた。よい強盗のディスマスはよじ登る時にこう言った。「もしおまえたちがおれらをあの気の毒なガリラヤ人のように取りあつかっていたなら、今ごろはもう引き上げられる必要もなかったろうにさ。」その時、獄吏たちはイエズスの着物を強盗がころがされている場所に集めて来て抽籤で分けようとした。マントは下よりも上の方がせまくなっていて、ひだがたくさんあった。二重になっている胸の所は物が入れられるようになっていた。かれらはこれを長い巾物に裂いて仲間分けにした。また長い白い上衣は胸の所が開き、細長い革でしめるようになっていたが、これも細長く引き裂いた。同様に主のおん血でそまった他の衣類も分けてしまった。しかし主の褐色の編物の下着は、それを裂くと全く用をなさなくなるのでその分配には意見が一致しかねた。それで持ち合わせていた数字の書いてある板と、しるしがしてある豆形の数個の石を取り出して、その板の上にころがしてそれをくじ引きにした。そこへニコデモとアリマテアのヨゼフの送った使いが一人走って来て、イエズスの着物の買い手がいると言った。するとかれらは全部をひったくり集めて走って行きその衣類を売った。かくしてこの聖なる物がキリスト信者の手に入ったのである。