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四七  十字架上の最初のお言葉



 獄吏たちは仕事が全部終わると道具をかき集め、またもや主を嘲弄しつつ帰って行った。同じようにファリサイ人らも馬をイエズスの面前に乗りつけ、またまた主に侮辱の言葉を投げかけてから町の方に引き返して行った。百人のローマの兵隊も去った。そして五十人が新しく交代として来た。この隊の隊長はアベナダルと言ってアラビア生まれでのちに受洗した。下士官の名はカシウスと言い、ピラトの伝令であったがのちにロンギヌスという名をもらった。そこへまたファリサイ人、サドカイ人、律法学士などの一群がのぼって来た。かれらの中には十字架の捨て札を書きかえてもらうため、さらにピラトの所に行った者も混じっていた。ピラトは面会を許さなかった。それでかれらはますます憤慨して土塀のまわりを乗りまわし、聖母に侮辱の言葉を吐きかけながら追い立てたので、ヨハネは聖母を少しうしろの方にお連れした。

 かれらは主の十字架の前に来るや、侮蔑的に頭を振りながら言った。「フン、このたばかり者め!一体どうやって貴様は神殿をこわして三日以内に建て直すというのか。 - こいつはいつも他人を助けようとしていたくせに、自分を助けることができないじゃないか。もし貴様が神の子ならば十字架から下りて見ろ。 - もしイスラエルの王なら十字架から下りて見ろ。そうすりゃおれたちも信ずるだろうさ。こいつは神により頼んでいたから今に神が助けるだろうさ。」 - また兵士たちも嘲笑いながら言った。「貴様がユダヤ人の王なら今自分を助けてみせろ。」

 その時イエズスは少し頭を上げて言われた。「父よ、かれらはなす所を知らないのですからゆるして下さい。」次いで主はさらに静かに祈られた。するとゲスマスが叫んだ。「もし貴様がキリストなら貴様自身とおれたちを助けろ。」

 嘲笑いはさらに続いた。しかし右がわの盗賊ディスマスはイエズスが敵のために祈られるのを見て深く感動した。かれの心はイエズスの祈りによって大いなる光を受けた。聖母が再び近くに来られるや、かれはイエズスと聖母が自分の子供の時に助けて下さったことを思い出した。そして声を張り上げて力強く叫んだ。「一体どうしてそんなことができるんだろう。おまえたちはこのお方の悪口を言っているのに、このお方はおまえたちのために祈るなんて!おまえたちが悪口を吐いているのに、このお方は黙ってがまんしておられる。このお方は預言者だ。われらの王だ。神のおん子だぞ - 。」この十字架に釘づけられているとが人の思いがけない非難の言葉は、侮辱を吐いている者の間にざわめきを起こした。かれらは石を探して来てかれに投げつけようとした。隊長アベナダルはこれをさえぎった。そしてかれらを追い散らさせたので再び静かになった。

 聖母はイエズスの祈りによってすっかり強められた。ディスマスは主を侮辱した仲間をたしなめて言った。「同じような罰をうけていながら、まだおまえは神を恐れないのか。おれたちはおれたちの悪事の報いを受けたのだから、この苦しみは当然だ。しかしこのお方は不正なことは何もしておられないのだぞ。おまえの罪を思って後悔しろ。」今やディスマスは深き痛悔の恵みを受けたのであった。




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