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五 御聖体のご制定
主の指図でふるまいつかさは再び食卓を用意した。そしてそれを少し高めにした。テーブル掛けをその上に広げた。食卓は再び広間の中央に置かれた。水瓶とぶどう酒の瓶は食卓の下においた。
ついでペトロとヨハネはベロニカの家から持ってきた杯を部屋の炉のそばから運んで来た。二人は杯を両手に捧げおおいを掛けたままで持って来たので、ちょうど聖櫃を運んでいるように見えた。かれらはそれをイエズスの前のテーブルに置いた。
そのそばに薄く切った白い溝のある過越しのパンを載せた皿があったが、それには覆いがしてあった。また、主が前の食事の時に裂かれた半分のパンもそこに置いてあった。その他ぶどう酒と水を入れる容器があり、そのそばに、小箱が三つあった。一つは濃い油、他は液状の油が一杯入っており、三番目は空であった。
食事の終わりにパンをわけ、一つの杯から飲み合うことはすでに、昔から送り迎えの際、親愛や兄弟の契りを結ぶ証しとして行われて来たことであった。しかし、イエズスは今日これを最高の秘跡にまで高められた。今日までそれはただ象徴としての所作に過ぎなかった。ユダは、主のなされたことをすべて、内通したので主の敵どもは、カイファの前で、主が過越しの晩餐の作法を変えたことを、他の訴えの中に取り上げて非難した。しかし、ニコデモは書き示されたものを根拠としてこの別れの習慣は昔からあったことを証明した。扉は全部閉められた。すべては大変内密に、かつ厳粛に行われた。主はペトロとヨハネの間に座を占められた。
まず杯のおおいが取られ、後ろの部屋に持って行かれると主はきわめて厳かに祈り、かつ、お話しになった。わたしは主が使徒たちに晩餐とすべての儀式を説明しておられるのを見た。それは、司祭が聖なる犠牲の祭式についてだれかを教えているようであった。
次いで、主は杯の載っている台から引板を引き出した。そして杯に掛けてあった白い布を取り、板の上にお広げになった。また杯の中から円盤(パテナ)を取り出しておおわれた板の上に置かれた。次に主は皿の中のパンをおおいの下から取り出され、ご自分の前の円盤の上に置かれた。また大きな杯を前に置きその中にあった小さな容器を取り出して他の杯と同じように左右に置かれた。それからパンを祝されたが、わたしは油もまた、祝されたように思う。次いで過越しのパンの載っているパテナを両手に捧げ、天を仰ぎ祈り、奉献され、再びそれを下に置いておおわれた。それから主は杯を取りそれにぶどう酒をペトロから、またあらかじめ祝された水を、ヨハネから注がせた。ついで小匙をもって自ら、水をわずかまた、杯の中に入れられた。そして、主はこの杯を祝し、これを奉献された。
主はペトロとヨハネからおん手に水を注がせられたが、その水は過越しのパンの載せてある皿に滴り落ちた。また、主はご自身で二人の使徒の手に小匙で水をお注ぎになった。次いで、皿が回されて一同その中で手を洗った。わたしはみながこれを、完全に倣ってやったかどうかは知らない。しかしわたしは、ミサ聖祭を思い起こさせるあれこれの所作を大いなる感動をもって見つめていた。
主はこうしておられる間に、いよいよ内的になられ、一同にお待ちになっているすべてのもの、すなわち、ご自分を与えようと仰せられた。
主は全く愛そのものになられたかのようであった。わたしは主がすっかり透き通って光輝く影のようになっておられるのを見た。
次いで主はパンを細かに裂いて、盤上に積み重ねた。そして、祈り、かつ教えられた。主のお言葉はすべて、炎と、光のように、お口から出て、使徒たちの中に入っていったが、ただユダだけには入らなかった。主はパンの載っている盤を持たれ、
「とって食べよ、これはおまえたちのために渡されるわが体である。」
と言われ、おん手を祝されるようにその上に動かされた。この時、光が主のおん体から流れ出て、パンは輝きを放った。それはあたかも主ご自身をその中に注ぎ込まれたかのようであった。主はまずペトロに次いでヨハネに秘跡を与えられ、さらに斜め前に座っていたユダに近くに来るように目くばせをされた。主がかれに御聖体を与えられたのは、三人目であった。しかし主のお言葉は裏切り者の口を避けていくようにみえた。その時非常な驚きのため、わたしが何を感じたか、今ははっきり言うことは出来ない。主はかれに、
「おまえがしようと思うことを早くせよ!」
と言われた。さらに主は他の人たちに御聖体をお授けになった。かれらは二人ずつならんで進み出た。それからイエズスは杯の両方の取っ手を持って顔の高さまで上げられ、ご制定の言葉を言いこめられた。この際、主は全くご変容された。主はお授けになる者の中に、ご自身入っていかれた。主は手に持った杯からペトロとヨハネに飲ませた。飲ませた後杯を下ろした。するとヨハネは小匙でおん血をおのおのの小さな盃に注ぎ入れた。それをペトロが使徒たちに与えると、かれらは二人ずつ一つの盃から飲んだ。わたしはユダも飲んだかどうかは今はっきり覚えていない。とにかく、かれは自分の場所にもどらずただちに、広間から出ていった。他の者たちはイエズスがかれに用事を言いつけたものだと思っていた。外に出るとユダは気違いのように駈け出した。
カリスの中に余ったおん血を主はカリスの中にあった小さな盃に注いだ、それから主は指をカリスの上にかざし、ペトロとヨハネにぶどう酒と水をその上から注がせ、それをさらに二人に飲ませた。そして残りは盃に入れて、他の者にわけられた。ついで主はカリスを拭き、おん血の残っている盃を中に入れ、祝別された過越しのパンの残りの入っているパテナをその上に置いた。そして蓋をしてから白い布きれを杯の上にかけて、盃の間に置いてあるカリスの台の上に置かれた。わたしはご復活後使徒たちがこのキリストによって、聖変化かれた供え物を拝領しているのを見た。
わたしは主ご自身がその一片を召し上がったかどうか覚えていない。わたしはまた、メルキセデクがパンとぶどう酒とを、奉献した時、かれ自身それを食べたのを見なかった。主がお与えになる捧げ物は主ご自身なので、主はすっかり、ご自身を空にして、慈悲深い愛となって、注ぎ込まれていくかのように見えた。これはとても言葉をもって言い表すことは出来ない。
御聖体ご制定の際のイエズスの動作はすべて非常に順序よく、厳粛に行われた、それは同時にご教訓であり、ご指導を与えられるかのようであった。わたしは使徒がその後、持っていた小さな巻物に符号で二、三覚え書きを書いてあるのを見た。その右左に動く所作は、いつもの祈りの時のように荘厳なものであった。