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五五 埋葬の準備
聖母はそこに広げられている敷物の上にお座りになり、マントらしい巻いてある布によりかかっておられた。神のおん子のもっとも聖なる頭を少し立てた膝の上にお支えになった。主の体は布を広げた膝の上に長く横たえられた。聖母の苦しみはその愛と同様に大きかった。聖母は主の長い苦しみの間、主を少しもおいたわりすることが出来なかったが、今やいとおしきおん子の体をやっとふたたび腕に抱かれた。しかし聖母は戦慄すべき虐待、恐ろしい傷を今直接ごらんになった。聖母は主の血まみれの頬に口づけをされた。マグダレナは顔を主の足に押し当てて伏せていた。男たちは遺骸埋葬のため何かと準備しに丘を下って行った。兵卒たちは少し離れて立っていたが、頼まれるままに手伝いをしていた。
婦人たちは折りたたみが出来る革の水袋を持っていた。またそこには炭火にかけられた水の入っている入れ物もあった。婦人たちは聖母とマグダレナにきれいな水と新しい海綿の入っている鉢とを渡した。海綿は使うたびに革の容器の中にしぼられた。使った水も捨てずに革袋の中に集められた。
聖母は言い尽くせぬ苦しみのうちにも強い勇気に満ちておられた。かの女は聖なるお体を見苦しいままにして置かれず直ちに清め整え始められた。聖母はいばらの冠のうしろを開いて非常に用心深くそれを主の頭からはずした。他の者たちはそれを手伝った。冠を取りはずす時、頭にささりこんでいたトゲが傷をさらにまた引き裂かぬため、一本一本それを切り取らねばならなかった。いばらの冠は釘のそばに置かれた。聖母はまだ頭にささっている長いトゲの先を一本ずつ引き抜かれ、痛々しくもそれを周囲の人にお見せになった。トゲは冠のそばに置かれた。 - 一つ一つのトゲを記念として保存されるように。
主の顔はもはや見分けられぬほど、血と傷のために変わり果てていた。乱れた髪、ひげにはすっかり血がこびりついていた。聖母は頭と顔を洗われ、髪に乾きこびりついている血をぬれた海綿でしめしてほどいた。こうして清めているとイエズスに加えられた虐待がどんなにひどいものであったか、ますますはっきりとした。わたしは聖母が小さな布を人さし指に巻きつけ、聖なる頭、口、歯、唇なろを洗い清めておられるのを見た。聖母はまた獄吏たちがむしり残したわずかばかりの髪をとかされた。
聖なる頭が清められると、苦痛に満ちたまえる聖母は、おん子の頬に接吻をされ、聖なる頭をおおわれた。次いで同じように聖なる体を清め整えた。まずイエズスが十字架をになわれた肩 - その肩は大きな傷でずたずたに切られていた - が目に付いた。次ぎに救い主の一方の脇腹から他のがわに貫いた大きな槍の傷痕のある心臓。聖マリアはこれらの傷をすべて洗われた。マグダレナはそこ、ここを手伝った。
さてすべての傷に油が塗られた。聖婦人たちは聖母の向かい側に座り、聖母に小箱を手渡すと、聖母はそれから少しずつ何度も油を取り出されては傷の中につめ、また塗られた。わたしは聖母がイエズスの両方の手を左手に持たれうやうやしく接吻をし、大きな釘の傷痕に香料をつめられるのを見た。兵卒たちはときどきやって来て新しい水を運んだ。次ぎに聖母はおん子の傷つき裂かれた目を閉じ、ご自分の手をしばらくその上に置かれた。それから救い主の口を閉じ、その頬の上に泣き伏された。
すでにヨゼフとニコデモはそこに立って待っていた。ヨハネは進み出て聖母に主の埋葬が出来るように主の体から離れていただきたいとお願いした。安息日がすでに迫っていた。聖マリアはおん子の遺骸をもう一度心をこめて抱きしめられ、胸を打つ言葉のうちに主からお離れになった。男たちは聖母の膝から主の体を、その横たわりたもう布といっしょに持ち上げ、少しばかり山を下った所へ運んだ。そこにはバルサムを塗る準備がすっかり整えられていた。かれらは遺骸を下ろし、うやうやしくそれに手をかけ、まっすぐに伸ばした。十字架上で胴と膝は曲がったまま、硬直していたからである。それから巾二尺、長さ六尺ばかりの長い布をその腰に巻き、下半身を薬草の束のようなもので埋めた。その上にニコデモが箱に入れて持って来た粉をまいた。それからさらに傷にもう一度油を塗り、香料をふりかけ、足まで薬草の束を置き、その上から布を巻きつけた。聖母マリアは頭のそばにひざまずいて、ピラトの妻クラウディアから贈られた、それまでマントの下で首に巻いておられた立派な布を、イエズスの頭の下に置かれた。それから聖母は他の婦人たちといっしょに、ご遺骸の肩や頭の隙間に全部薬草の束、すなわち細い繊維状の植物とその粉末を詰められた。次ぎに聖母は布で頭と肩を固く巻いた。マグダレナはもう一度小瓶からよい香りのする物を主の脇の傷の中に注ぎ込んだ。男たちは硬直したイエズスの腕を腹部の上に組み合わせた。そしてすべてを香料で詰め、子供を包む時のようにご遺骸を全部その胸の所まで大きな布で包んだ。それから一方の肩に広い巻布をはさみ、聖なる体に手をかけ持ち上げながら頭と体全体を巻いた。最後に聖遺骸をアリマテアのヨゼフが買って来た大きな十二尺ほどの長さの布の上においた。聖遺骸はその上に斜めにおかれた。それから布の一方のはしを足から胸まで折り返し他方を頭から肩へと持って来た。そしてはしの両面で体を包んだ。