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六十  聖土曜日の晩



 安息日の終わりにヨハネ、ペトロ、大ヤコブなどが前後して聖婦人の所へやって来た。そしてかの女たちと共に悲しみながらも、かの女たちを慰めた。かれらが立ち去ると聖婦人たちはまた喪服をつけてさびしげに座り祈った。やがて油や香油を準備するためにかの女は一つのテーブルに集まった。そのテーブルは交叉した足で支えられ、地面までとどく布でおおわれていた。わたしは何人かがこのテーブルでたくさんの薬草の束をえり分けたり、整えたり、混ぜたりしているのを見た。かの女らはまた油やナルドの香油の入っている小瓶や、生け花を何種類か用意した。そしてそれらをみないっしょにまとめて布に包んだ。それは何人かが出かけて行って整えたものであった。かの女らは明日の朝早く主の体にこれらをもう一度まき注ごうと思っていた。

 その後わたしはアリマテアのヨゼフの方を見た。かれは牢獄の中で祈っていた。わたしは牢獄が突然光りに満たされ、ヨゼフがその名を呼ばれているのを見た。それはあたかも牢獄の上のふたが持ち上げられたようであった。一人の輝ける姿が現れ、上から布をおろした。わたしはキリストの聖骸布を思い出した。その輝ける姿はヨゼフに下ろされた布につかまってよじのぼるように命じた。わたしはヨゼフがそれを両手に握って壁から突き出ている石に足をかけ、入口までよじのぼるのを見た。その高さは確かに人二人ほどであった。そのあとで入口は閉ざされた。かれが上に出るやいなや、その幻影は消えてしまった。わたしはかれを救い出した者が主であったかまたは天使であったか知らない。

 さてヨゼフは城壁の上を晩餐の広間の近くまでだれにも見とがめられずに走った。かれは城壁を下って扉をたたいた。集まった弟子たちは閉ざされた扉の中でヨゼフの消え失せたことを非常に悲しんでいたのだった。かれらはヨゼフが下水に投げ込まれたものと信じていた。かれらが扉を開き、一同の前に立ったヨゼフを見た時、かれらの喜びはちょうどあとで起こった出来事の時のように、すなわち、ペトロが牢獄から戻って来た時のように非常に大きかった。かれはかれに現れた出現を語った。かれらはこれを聞いて非常に喜びかつ慰められた。それからかれに食べ物を与えて力づけ再び神を賛美した - 。その夜のうちにヨゼフはエルサレムからかれの故郷の町、アリマテアに逃げた。 - あとで間もなくもはや危険なしという知らせを受けて、かれは再びエルサレムに帰って来た。

 わたしは安息日が終わってから、カイファと他の高位の司祭たちがニコデモの家に行くのを見た。かれらはニコデモにいろいろのことを尋ねた。表面は本当に好意を持っているかのように。わたしはそれがどんなことであったかもはや覚えていない。かれはあくまで断固として忠実に主の弁護をし続けた。するとかれらは帰って行った。

 聖なる墓の附近は静寂、かつ平穏であった。七人ばかりいる見張りは丘に向かって、またあるいは立ち、ありは座っていた。カシウスもまたその部署をごくまれにしか離れなかった。夜になった。墓の前の火のかごはまぶしい光りを放っていた。聖なる遺骸は包まれたままで光りにおおわれていた。埋葬以来常に二位の天使が、静かに祈りつつ聖なる遺骸の頭の方と足許とに仕えていた。かれらは司祭のような服装をし、あたかも契約の櫃の上のケルビムのような恰好をしていた。しかし翼は見えなかった。

 さてわたしには主の聖なる霊魂が、救われた太祖の霊魂と共に岩を通って聖なる墓にくだって来て、かれらに聖なる体の受けたあらゆる虐待をお見せになっているように見えた。聖遺骸のおおいは全く取りのけられているようだった。なんとなれば主の傷だらけの体がみえたからである。主のお体はすっかりすき通ったようにわたしの眼に映った。それでお体の中まですっかり見えるようであった。一同は深く主の苦痛がわかることができた。霊魂たちは言い現し得ぬ畏敬の念に打たれた。かれらは同情のあまりふるえ泣いているようであった。

 聖婦人たちは香料を整えて布に包んでから小室に退いて少しまどろんだ。かの女たちは夜明け前にイエズスの墓に行こうと思っていた。かの女たちはこう計画しながらも不安であった。それは自分たちが出て行くと、イエズスの敵が待ち伏せしているかも知れないと思ったからである。しかし聖母は一同に今しばらく休んでから元気を出して行きなさい。なんらの危険にも会うようなことはないからと慰められた。




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