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六四  師出現し給う



 ルカが弟子に加わったのは、ごく最近のことであった。かれはしかし以前にヨハネの洗礼を受けていた。マテオがベタニアで行った教育と愛餐の折にはかれも参加していた。しかしその後かれは疑いと憂えに閉ざされ、エルサレムのヨハネ・マルコの家に行き、そこで夜を過ごした。この家には他になお大勢の弟子が集まっており、その中にはマリア・クレオファの甥のクレオファスもいた。かれは晩餐の広間の愛餐と教育に加わっていた。弟子たちはイエズスのご復活について語り、その疑いを述べ合っていた。ルカとクレオファスはことにその信仰が動揺していた。その頃は大祭司の命令が改めて強化され、何人もイエズスの弟子たちに住居や保護を与えてはならぬ事になっていた。それでこの二人はエルサレムを去って、エンマウスに行こうと決心した。

 私は城門の前の二人を見た。かれらは杖を手にし、小さな包みを抱えていた。ルカは革の袋を持っており、時折道から離れて薬草を採集していた。 - かれは最近あまり主にお会いしておらず、またベタニアにおけるイエズスの教えも聞かず、むしろマケルスのヨハネの弟子たちの所に滞在することが多く、イエズスの永続的な弟子ではなかった。たとえかれが以前、しばしばイエズスの弟子たちと交際し、ますます好奇心を持つようになっていたとは言え、かれが正式に主の団体に加わったのは、やっとつい最近のことであった。わたしは二人が不安と疑惑に包まれ、自分の聞いた一切の事について論じ合おうとしているのを感じた。主がかくも屈辱的な磔刑に処せられた事が、特にかれらを誤らしめていた。かれらは救世主たるメシアが、かくも虐待され得るということが理解できなかった。イエズスがわき道から近づかれたのは、かれらがほぼ道の半分を行った頃であった。二人が主を認めるや、自分たちの話を盗み聞きされるのを恐れて、行き過ぎさせようとその歩みをゆるめた。イエズスもまたゆっくりと歩まれ、二人が通り過ぎてから本道に出られた。私は主がしばらくの間二人の後を歩いておられたが、間もなく「一体何の話しをしていたのですか」とたずねてかれらに近づかれたのを見た。そしてかれらはお互いに語り合った。道がエンマウスへわかれる所でイエズスが南のベトレヘムの方への道をとろうとするように見受けられた。するとかれらは主に一軒の家に入るよう、しきりにすすめた。それは私には公共の祭用の家のように思えた。そこには婦人は一人もいなかった。部屋は四角でさっぱりとし、テーブルには覆いがかけてあり、休息用の椅子がその周りを囲んでいた。一人の男が食事を運んで来た。イエズスは客だったので上座にお座らせした。給仕人はよい感じの人で、料理人が料理頭のようにエプロンをかけていた。しかし儀式の所作の時にはそこにいなかった。 - 

 まずかれらは祈ってから食卓についた。イエズスはかれらとともに主人の運んで来た大きな四角の菓子や蜂蜜の巣を食べられた。次いで主は小さな菓子を取り上げ、それを割り、小皿の上に載せ、祝し、立ち上がって上を見つめながら両手をもって捧げ祈られた。二人は向かい合って立ち、非常に深い感動にひたっていた。主はその一片を三つに分け、かれらにその一つをお与えになった。主は残りの部分を口に運ばれる動作の途中でお消えになった。私はそれを主が実際に食べられたかどうかは言えない。二人の弟子はなお暫くの間硬直したように立ちつくしていた。かれらは感動の涙にぬれて抱き合った。

 この光景は、主のおだやかなほ慈愛により、また弟子たちが師とは気付かなかった時の物静かな喜びにより、さらにかれらが主を認めた時の恍惚により、特に感動的なものであった。今やかれらは直ちにエルサレムをさして帰って行った。

 同じ日の夕方、トマを除いた使徒一同は晩餐の広間に集まった。ニコデモとアリマテアのヨゼフの外に、なお大勢の弟子たちもいた。扉は閉ざされていた。一同は広間のランプの下に三重の円を作って立ち、祈っていた。皆は白い着物をきていた。ペトロとヨハネと小ヤコブは特に目立つ衣をつけ。巻物を手に持っていた。祈りの間ペトロはまた一同を教えた。

 聖母はこの儀式の間、マリア・クレオファ及びマグダレナとともに、広間の方に開かれた玄関の間にいられた。イエズスがペトロ、ヨハネ、ヤコブに出現されたにもかかわらず、使徒と弟子たちの大部分のものが、そのご復活をまだ本当に信じようとはせず、師のご出現は。実際に肉体的なものではなく、預言者にも与えられたような単なる幻覚にすぎないと考えていたことが私には不思議でならなかった。

 ペトロの話の後に一同は再び祈りに並んだ。その時ルカとクレオファスがエンマウスから戻って来て、閉ざされた門の扉を叩いた。

 祈りはしばし中断され、かれらはそのよろこばしき知らせを説明した。しかし一同が再び始めるや否や、私は居合わせた者一同が嬉しそうな感動を受けたのを見た。

 イエズスは白い長い衣をつけられ、軽く帯をされ、閉ざされた扉を通って入って来られた。かれらは、主がその列を通り抜けて、ランプの下に立たれるまでは、単になんとなく主を身近に感じただけであった。かれらは非常に驚き、深く感動した。主はかれらにその手、足を示し、また脇腹の傷を示すためにその衣を開かれた。主はかれらにお語りになった。しかし一同は非常に恐れていた。主は食べ物を望まれた。すると私はペトロが垂れ幕の後ろに行き、間もなく一切れの魚と少しばかりの蜜ののっている細長い皿を持って出て来たのを見た。イエズスは礼を言い、その食物を祝してお食べになった。主はまた二、三の者にも少しばかりお与えになった。また玄関の間の入口に立っておられた聖母と婦人たちにもお分けになった。

 それから私は主がお教えになるのを見た。また言葉の一部は使徒だけに理解された。私はかれらがそれを聞いたとは言うことが出来ない。なぜなら私はイエズスがこの時唇を動かされたのを見なかったからである。主は輝いていた。その手足及び脇腹の傷から光りがさし出ていた。またその口から光りが流れ出て、あたかも主がそれを息き吹いているようであった。この光りがかれらの中に流れ込むと、かれらはそれら一切を認め理解した。主はまたかれらが罪を赦すことが出来、洗礼を授けねばならぬこと、病を癒すことなどをお告げになった。

 最後に主はかれらに数日間シカル地方に赴き、主のご復活を証明するようにお命じになった。そして主は消え去られた。私はこの集まりが全く喜びに酔うているのを見た。かれらは扉を開き、出入りしていたが、やがて再び集まって賛美と感謝の歌をうたった。





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