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六七 イエズス、ゲネサレトの湖畔に出現し給う
使徒たちが湖の方に出発する前に、一同はなおカルワリオへの十字架の道を歩いてからベタニアに赴き、そこからいろいろな弟子たちをつれて出発した。かれらは幾組にも分かれ、別々の道をとって北に向かった。かれらは村を避けて行った。
ティベリアデの町外れで、かれらは一人の漁夫の所に立ち寄ったが、かれはペトロが少し前まで賃借りしていた仕事をゆずり受けていたのである。その人は一同のために食事をととのえてくれた。
その後かれらは二艘の舟に乗ったが、その一方は少し大きかった。ペトロはこの大きな舟に、ナタナエル、トマ及び漁夫の下男と一緒に乗り、他の舟にはヨハネ、ヤコブ、マルコ、シラたちが乗った。ペトロは他の者に漕ぐことを許さず、自分で漕いだ。たとえイエズスがかれを抜擢されたとはいえ、かれはなおまめに立ちまわり、特に上品で教養のあるナタナエルに対しては遠慮していた。
かれらはたいまつの火の下で夜通しあちらこちらと漕ぎまわり、しばしば二艘の舟の間に網を投げたが、何度引き上げても空であった。その間かれらは祈り、また詩編を歌った。明け方近く日がすでに白みかかった頃、舟は湖の東岸に近づいた。かれらは疲れたので、岸の近くに錨を下ろそうとした。かれらは漁りの時には着物を脱いでいたので、休むために再びそれを着ようとした。その時岸の芦の陰に人影を見た。それはイエズスであった。主はかれらに呼びかけられて、
「子供たち、何かおかずになるものはないかね」と、おたずねになった。かれらは「何もありません。」と答えた。するとイエズスは「網をペトロの舟の西側に投げなさい。」ともう一度呼ばれた。
かれらはその通りにし、ヨハネはそのためにかれの舟を大きな舟の向こう側にもって行った。かれらが網を引き上げる時に、それがとても重いのを感じた。その時ヨハネは主と気がついて、静かな湖越しにペトロに向かい、
「あの方は主だ!」と叫んだ。するとペトロは直ちにその上着を引っ掛けて、岸に早く上がろうとして水の中に飛び込んだ。
使徒たちが湖上で漁っている間、私は主が多くの太祖の霊魂に取りまかれて漂われて来るのを見た。この四十日の
間、私は師が弟子たちとともに居られぬ時には、主の特に身近な霊魂たちの所にいられるのを見た。主はかれらにご自分の生涯と、ご受難のあらゆる場所を教えられ、ご自分の苦しまれた一切のことをお明かしになった。そのためにかれらは書き表し得ぬほどに慰められ、感謝で心を浄められた。主はその時かれらを枷から解放した新約の奥義についてある程度教えられた。私は主をこうしてナザレトやベトレヘムの厩や、その他主になんらかの重要な事件のあったすべての場所にお身受けした。この霊魂たちはほのかな光を放ち、流れ落ちるようなひだのある長いせまい衣を着ているのを見た。その髪はまた光線のように見えた。私は王と司祭がその権威の外面的な徴を何も帯びていないにもかかわらず、直ちに認めることができた。私はモーゼがこれらの霊魂にとりまかれて、救い主に従って行くのを見たが、このようにここでもまた秩序の精神が行われていた。すべてこれらの霊は極めて優雅で、また気品のある動きをしていた。かれらは地面に触れてはいたが、重さがあるようではなく、その上を漂うようにしていたのである。 - この霊魂たちとともに、私は救い主が使徒たちのなお漁っている時に湖畔に来られたのを見た。
丘陵の起伏のかなたにくぼみがあったが、そこには多分牧夫が使うらしい火焚き場があった。
私はイエズスが火を燃やしたことも、あるいは魚を取られたことも、またそれをどこか他から持って来られたことも見なかった。火と魚とは主が、魚がここに準備されなければならぬとお考えになるや否や直ちに現れたのである。それがどういうようにして現れたかは私は説明することができない。
ペトロがすでにイエズスの傍に来て立っていた時に、ヨハネもまた来た。舟にまだ乗っていた者たちは陸の上の二人に網を引く手伝いをしてくれと叫んだ。
イエズスはペトロに魚を持って来るよう仰せられた。かれらは網を岸に引き寄せ、ペトロは魚を網から取り出した。それはいろいろな種類の魚百五十三匹であった。ティベリアデから来た数人の漁夫は舟にいたが、かれらはそのまま残っていた。しかし使徒と弟子たちはイエズスとともに行った。イエズスはかれらに食事にくるよう招かれた。かれらが火焚き場にきた時には、すでに太祖たちの霊魂は消え失せていた。使徒たちは火やパンや、自らが持って来たのではない魚があるのを見て非常に驚いた。一同は腰を下ろし、イエズスはかれらに給仕された。主は小さなパンの上に鍋から魚を取り出してのせ、各自にお与えになったが、私は魚が少しも減らないのを見た。主がこうして一同に食事を配られてから、かれらの傍に腰を下ろして一緒にお食べになった。すべてこれらは極めて静かでまた厳かなものであった。
かれらはしかしみな臆病で恐れていた。それは主がいつもより霊じみていたからである。
この食事と、早朝の一時は何となく神秘的な所があった。だれも敢えてお尋ねしようとする者はいなかった。イエズスはおん身を包みかくしていられるように見え、そのおん傷はこの時は見えなかった。
食事が終わると主は立ち上がって、かれらとともに岸辺をあちらこちらと歩まれた。その時主は一度立ち止まりペトロにお尋ねになった。
「ヨナの子シモン、お前はこの者たちよりもわたしを愛していますか?」ペトロははにかみながら答えた。
「はい主よ!あなたは私がお愛ししていることをご存知でございます。」すると救い主は仰せになった。
「わたしの小羊を牧しなさい!」一同は更に歩み、イエズスは時々振り返って立ち止まられた。しばらくしてから主はお尋ねになった。
「ヨナの子シモン、お前はわたしを愛していますか?」ペトロは再び非常に謙遜して自分が主を否んだことを思い出しながら答えた。
「はい主よ!あなたは私があなたをお愛ししていることをご存知でございます。すると主は再び厳かに仰せになった。
「わたしの羊を牧しなさい!」しばらくたって一同が再び少しばかり道を歩いた時、救い主はまたもお尋ねになった。
「ヨナの子シモン、お前はわたしを愛していますか?」するとペトロは、イエズスは自分の愛を疑っておいでになって、こうたびたびお尋ねになるのだと考えて非常に悲しんでいるのを私は見た。かれらはまたさらに自分の三度の否みを思い出して言った。
「主よ、あなたはすっかりご存知でございます!あなたは私がお愛ししていることをご存じでいらっしゃいます!」するとイエズスは繰り返し、
「わたしの羊を牧しなさい!真に誠にお前に言うが、お前が若い頃は、自分で帯をして、自分の行きたい所に行った。しかし年をとってからは、自分の手を差し伸べると、他の者がお前に帯をしめて、好まぬ所につれて行くだろう。わたしに従いなさい。」と仰せられた。
イエズスは再び歩みつづけられた。ヨハネは主と一緒に歩き、師はかれだけに何か話されたが、私はそれを聞くことができなかった。ペトロはこれを見てヨハネを指さしながらお尋ねした。
「主よ、この人は一体どうなるのでしょう?」するとイエズスはかれの好奇心をおとがめになって仰せられた。
「もしもわたしが再び来るまでかれが残ることをわたしが望んだとしても、それがお前に何の係わりがあるのか?お前はわたしについて来なさい!」そして主は振り向いてさらに歩み行かれた。こうして一同はイエズスと暫くの間歩みつづけたが、イエズスはかれらが今後なすべきことをなお話された。そしてかれらの目から消え失せられた。使徒たちが取った魚は一匹も食事には使われなかった。かれらはその獲物を再び舟にのせて向こう岸に運んで行った。ペトロはかれの魚取りの後継ぎに自分たちの奇跡を話し聞かせた。この年老いた漁夫は自分の息子から、ペトロの言葉を保証されて一切を捨てようと決心した。魚は貧しい人々に分配された。そして自分の仕事を他の者にゆずり、その日の夜、二人の息子とともに弟子たちの後を追った。かれらはしばらく西岸に沿って進みそれから少し陸地の方に入って行った。しかしこの漁夫の目的は全く純粋なものではなかった。なぜなら、もしかれらが一切のものを捨てるならば、なお何か得ることができるだろうということを当てにしていたからである。
翌日の明け方、使徒たちは三つの村の中央の野原の中にある、かなり大きな会堂に行った。この会堂は二、三の旅舎に囲まれていたが、そこには大勢の弟子たちが集まっていた。ペトロはかれらにイエズスの奇跡とお話しを説明した。この地方のイエズスに味方していたよい人々もまた皆来ていた。ペトロはここで主のご苦難とそのご復活を語り、自分たちが主を見たことも説明した。そしてかれは人々にイエズスの後に従うようにすすめた。人々はすっかり感動していた。ペトロの人柄が前の二回のご出現以来大きな変化をきたしたからである。かれは熱心であると同時に、柔和に充ち溢れ、この人たちの心を非常に感動させたので、皆は直ちに行動をともにしようとしたほどであった。それでかれは大勢のものに自分の家に止まっているように命じなければならぬほどであった。