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七 イエズスオリーブ山に向かいたもう
イエズスは十一人と共に広間を出られた時、もはやみ心は憂いに沈んでいた。そしてその憂いはますます募っていった。主は供を、ヨザファトの谷を通る回り道をして、オリーブ山へとともなわれた。一同がこの谷に入った時主は、「自分がいつか再び、この谷に来る。しかし今のように貧しく力のない者としてではなく、世の審判者として来る。その時人々は恐ろしさの余り『山よ、われらをおおえ!』と叫ぶだろう。」と仰せられた。しかし弟子たちはこの時も主の仰せられたことを了解出来ずにいた。
一同はあるいは歩みを進め、あるいはまた静かに立ちどまった。イエズスはかれらと語りたもうた。その時主は「今夜みなわたしのことでつまづくだろう。それは『われ牧者を打たん、かくて羊の群は散らされん』と書き記されているからである。しかしわたしが復活した時はおまえたちより先にガリラヤに行くだろう」と仰せられた。
使徒たちは御聖体拝領と、愛に満ち溢れたイエズスのお言葉によって感激と、親愛に満ちていた。そして主に寄り添い、いろいろな方法で自分たちの愛を言い表していた。一同は主を決して置き去りにするようなことは致しませんと強調していたが、主はくり返し、そのことについて仰せられた。するとペトロは、「たとえ他の者が主につまづくともわたしだけは決してそんなことは致しません」と言った。それで主はまたもやくり返し「本当におまえが今晩鶏が鳴く前に三度わたしをいなむだろう」と言われた。しかしペトロはどんなことがあってもそれを認めようとせず「たとえわたしがあなたと共に死なねばならぬとしても、決してわたしはあなたをいなみません」と主張した。ほかの者もみなまた同じようなことを言った。イエズスはしかし、ますますおん悲しみに包まれていった。使徒たちはおん悲しみを、人なみの気休めでしずめようとした。そして自分たちの忠実さを主に誓った。しかし、ついにかれらも疲れ、疑い出した。かくて試みがかれらをおそい始めたのだった。
一同はケドロンの小さな流れを、のちほどイエズスが囚人として連れて行かれた時渡られる橋でなく、他の橋を渡って越えた。それは回り道をしていたからである。
オリーブ山には垣をめぐらし、貴重な灌木や果樹を植え込んだ大きな園があった。多くの人たちは、そして使徒たちも、この園の鍵を持っていた。そして中にはいろいろな、公開宿泊所や、厚く葉でおおわれた小屋があった。これがゲッセマネの園であった。
オリーブの園は一本の道路によって、垣根をめぐらしたこのゲッセマネの園と隔てられ、一般に開放されていた。それはただ土塀に囲まれ、オリーブ山の斜面の方に伸びていた。
イエズスが弟子たちと園に着いたころには、すでに全く暗くなっていた。主は深く憂いに打ち沈み危険の迫って来たことを語られた。弟子たちはすっかり狼狽してしまった。ゲッセマネの園で主は八人の使徒に「わたしがわたしの場所に祈りにいっている間、ここに止まっておれ」と仰せられた。それからペトロとヨハネおよび大ヤコブを連れて山のふもとのオリーブの園に行かれた。主は迫り来る戦いを予感され、言葉に尽くし難い悲しみに包まれていた。ヨハネは主がいつも、自分たちの慰めであられたのに、一体どうしてそうお悲しみなのですかとお尋ねすると「わが魂は死ぬるばかりに憂いている」と仰せられた。主は憂いと試練が恐ろしい雲のようなかたちでまわりからおそいかかるのを見た。主は三人の使徒たちに「ここに止まって、わたしといっしょに起きていよ。そして誘惑に陥らぬように祈れ」と言われた。
三人はそこに残った。イエズスは少し前の方に進まれた。恐ろしい幻影が主に押し迫って来た。主は非常な恐怖におののきながら、使徒たちの所から左手の方に下って行った。おおいかぶさるように突き出している岩の下の六フィートほどの深さの洞の底はゆるやかに、灌木が入口におおいかぶさっていたので、その中に入ると、ちょっと、外からわからなかった。