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五九 古聖所に降りたもう
イエズスが高き叫びと共に死したもうや、わたしはいと聖なる霊魂が天使の一大軍勢に囲まれて、光の形となって十字架のかたわらから地の中に下ってゆかれるのを見た。しかしわたしは神性がたしかに霊魂とも、また十字架にかけられたもうた体とも一致しているのを見た。わたしはそれがいかようにして起こり得たかを言い表すことは出来ない。 - イエズスの霊魂が行かれた場所は三つに分かれていた。古聖所の前には緑がかったと言おうか、明るい晴れ晴れとした場所があった。わたしはこの所へいつも煉獄の火からゆるされた霊魂が、天国に入れられる前に入ってくるのを見た。
救いを待ちかねている者たちのいる古聖所は、灰色のもやのようなとばりに包まれていろいろの組に分かれていた。光り輝き、あたかも凱旋する者のごとく天使に導かれたもう救い主は、左側のアブラハムまでの太祖の一団と、右側のそれ以降の人々のいる間を通って来られた。霊魂たちは救世主とはまだ気がついていなかったが、みな喜ばしいあこがれに満たされた。あたかも救いの露がみなの上に下ったようであった。イエズスは最初に人祖アダムとエヴァの住んでいるもやのたちこめた室に入られた。主がかれらに話しかけられるや、二組は言葉に尽くせぬ無上の喜びに満ち、主を礼拝した。次いでかれらはいっしょにアブラハム以前の太祖の所に行った。天使は戸をたたき、あけるように命じた。わたしは天使たちがこう叫んでいるように思われた。「門をあけよ!扉をあけよ!」イエズスはその中に勝利者として入られた。しかしこれらの霊魂は主をただわずかに救世主と知り、おぼろげに主を悟っただけであった。しかし主がご自身を明かすやいなや、一同は主を賛美し始めた。次いで主の霊魂は本来の古聖所である右側の場所に行かれた。その前で天使にともなわれ、進みくるよき盗賊の霊魂に会われた。イエズスはこの霊魂に言葉をかけられてから、かれと天使たち、および救われた者たちと共に他の場所に行かれた。
その場所はわたしには高い所にあるように思われた。それはまず地下の墓場を通って地上の聖堂に登って行く感じであった。そこには聖なるイスラエル人、太祖、次いでモーゼ、旧約の裁判官、王、預言者、イエズスの先祖、およびヨアキム、アンナ、ヨゼフ、ザカリア、エリザベト、ヨハネの親戚がいた。言い表し得ない喜びと法悦とがすべての心に満ちあふれた。かれらは主に挨拶し、主を礼拝した。
多くの者が墓から身を起こし、主に対する見える証明を行うために地上に派遣された。それはちょうどエルサレムにたくさんの死者がその墓から出て来た時であった。かれらの出現は歩きまわる死骸のようであった。次いでかれらは再び体を地中に横たえた。
その次にわたしはこの凱旋の行進が一層深い地域に再び進んで行くのを見た。そこは一種の清めの場所で真理をおぼろげに悟り、またあこがれていた敬虔な異教徒らがとどまっていた。わたしはこの霊魂たちもまた感動すべき喜びをもって救い主に敬意を表しているのを見た。こうした救い主の凱旋行進は非常な速さで霊魂のとどまっている多くの場所をめぐり、そこでいろいろなことをされた。
最後にわたしは主が非常に厳粛に、奈落の中心たる地獄に行かれるのを見た。それは途方もなく大きな、恐ろしい、黒い金属のように光った岩で作られているようにわたしには見えた。その入口にはかんぬきと錠のかかった真っ黒い門があり、思わず戦慄を覚えるほどであった。恐ろしいほえ声と叫びが聞こえて来た。
門が天使によって突き開かれるや、不気味な呪い、わめき、悲嘆の叫びがうなり声となって響いて来た。天使は悪魔の一群を投げ倒した。あらゆるものはイエズスを認め、礼拝しなければならなかったが、かれらにとってそれは非常な苦しみであった。わたしはイエズスがユダの霊魂に言葉をかけられたのを見た。中央には闇の奈落があった。そこにはルチフェルが鎖につながれていた。わたしに示された事柄をすべて言うことはとてもできない。それはあまりにも多すぎて順を追うて話すことは全く不可能である。またわたしは非常に病気でもあるから。それで、もしそれらを語るとすると、あらゆるものがもう一度眼前に現れて来て、それを一目見ただけでも死にそうに感ずる。
しかしわたしは古聖所や清めの場所から来た霊魂たちがイエズスの霊魂にともなわれて天のエルサレムの下にある心地よき所に行くのを見た。わたしはそこでちょっと以前わたしの聖なる友を一人見た。そこによき盗賊の霊魂も来たが、今こそ主の約束の通り再び楽園で主にまみえたのである。そこには魂たちのために天の食卓の喜びといこいとが待っていた。
わたしは主をいろいろな場所で、海上でさえもお身受けした。主はあらゆる被造物を解放されるごとくであった。至る所で悪魔は主から逃げ去り、奈落に落ちて行った。またわたしは地上、多くの場所へ主のご霊魂が行かれるのを見た。主はアダムとエヴァをかれらの墓に連れて行き、そこでかれらとお話しになった。次に主は地下のいろいろの場所にある預言者の墓に行かれた。その霊魂たちは自分の墓の所で主に加わった。主はかれらに種々のことをお話しになった。それからわたしは主がダビデも加わったこの選ばれた群れと共に、ご生涯を過ごしまた苦しみをなめられた多くの場所においでになるのを見た。主はそこでかつて行われた前じるしを説明し、またその結ばれた実であるお恵みを、言い尽くせぬほどの深い愛情をもってかれらにお与えになった。また主の受洗された所では、主がかれらに聖なる洗礼の恵みを与えておられるかのようであった。主の霊魂がこれらの幸いなる慰めをうけた霊魂に取り巻かれつつ、光り輝きながら、暗い地上や岩や、水や、空気を通り、静かに飛翔している有様はまことに言いようもないほど感動する光景であった。
主が冥府の世界をめぐり行く幻影 - 限りある時間的幻影 - のほかに、わたしは煉獄に苦しむ霊魂に対する主の慈愛の、時を越えた永遠の幻影を見た。わたしは毎年この祝日に主が教会を通じて救いのまなざしを煉獄の火の上に投げられるのを見た。今日の聖土曜日にも - ちょうどわたしがこの黙想をしていると - 清めの場所から若干の霊魂が主に救われるのを目撃した。その霊魂たちの中にはわたしの知っている者もあり、また見知らぬ者もあったが、わたしはもはや覚えていない。